山本和正パーソナルサイト

◎第12話 スーパー耐久シリーズR3富士

1.フリー走行 金曜日
レースウィークは、週間天気予報からしてウェットの予想だった。金曜の朝からの走行ということで、富士を目指して木曜の夜に出発し、メインゲート前で仮眠することになり、早々と出発した。今回もスケジュールの関係から事前のテスト走行ができず、金曜のフリー走行で走行、ということになった。ただ前回の鈴鹿を終えてからトータル的に足まわりの変更を行い、より扱いやすいマシンに仕上がっているとのことだった。

金曜は案の定朝から雨で、富士名物とも言うべき霧も発生。コンディションとしてはなかなか大変なものであった。例によって朝一番の枠で走行することとなった。コントロールライン付近から1コーナーの先は霧で見えない状態の中、ウェット路面を手探りの中走行して、こんなものかな、というところでペースが掴みきれないまま走行してみた。

走行してみると、各コーナーではよく曲がる挙動になり、なかなかいい感じであった。しかし富士は高速コーナーということもあり、ウェット路面では1コーナーなどの高速コーナーでブレーキングの際リアが大きくとられ、ブレーキ時の姿勢が不安定になる挙動が出た。そのためすぐにピットインし、メカニックにそれを伝えた。他のドライバーも乗ってみて、リアウイングを変更することになった。

昼の走行では雨も上がってきて、路面も乾き始め、レインタイヤでは走行できないぐらいの路面になってきた。そこで減衰力の調整などを行いセッティングを煮詰めていくが、セッティングを変えるたびに天候とコースコンディションが変わるため、同じ条件でなかなか比較ができない。ある程度の推測も交えてセッティングを判断するしかなかった。

メカニック、各ドライバー、共に何度も話し合いながら試行錯誤を繰り返していく。いろいろ迷いはあったにせよ、一旦これでいこうというセッティングの数値がベースとして出てきた。

2.予選 土曜日
例によって予選1回目はA,Bドライバーが走行して基準タイムをクリアできるかどうかチェックし、2回目でタイムを出してグリッドを決める。そしてその後3回目でCドライバーが走行し基準タイムをクリアできるかどうかチェックする、という方法で行われた。
予選出走直前
※予選出走直前のマシン。ドライになってきている。 コクピット
※コンソールパネル。メーター類はデジタル化され、左上の丸い計器はブースト計である。
予選中ピットインした脇田氏
※予選中ピットインした脇田氏。
予選中ピットインした原田氏
※予選中ピットインした原田氏。
予選直前の著者
※予選直前の著者。マシンでまたしても寝ている(違うって^^;)
サイドミラーの位置を調整中
※出走直前の著者。左サイドミラーの位置を調整中。

タイム的には昨年の富士のタイムには及ばなかったものの、ピーキーさは消えて全体的に耐久向きの安心感のある操作性のマシンに仕上がった。

3.決勝 日曜
決勝の日曜は、非常に微妙な天候になってしまった。雨は止んで、路面はほぼドライに近い状態で、スリックタイヤで走行できそうだった。しかし霧が出てきた。朝のフリー走行は8:00からだったのだが、そのころになると霧は非常に濃くなり、ピット側からホームストレートを挟んだメインスタンドの観客席が見えないほどになってきてしまった。当然これでは危険で走行できない。場内アナウンスで、最終的には結局フリー走行は中止となってしまった。 1コーナー方面
※1コーナー方面を臨む。このように全く先は見えない。視程50m程度か
グランドスタンド側
※グランドスタンド側を覗いてもこんな様子。見えん。

富士では霧が濃くなると、その後に雨が降るか晴れてくるか、はっきりとしてくるということであったが、この時は雨が降り始めた。濃い霧のため、朝に予定していたヴィッツレースは一旦様子見となってしまい、そのまま待機に。その後のフォーミュラ・トヨタはなんとか出走できたものの、大幅にスケジュールが遅れていた。その後GC21、ヴィッツ、FKカートとF100カートの決勝も行われた。
となりの女の子達
※隣のチームのピットサイン要員の女の子。思わず笑顔を撮ってしまった(笑)

そんな状態で、午後からの天候を予想しながらタイヤをどうするかを話し合っていた。天気予報では、おそらく雨は午後から上がり、ドライ路面か、あるいはハーフウェット路面になるだろうという予想から、レインタイヤのはまっていたホイールにスリックタイヤをはめ換え、そしてインターミディエットタイヤとして、Sタイヤの048、SSコンパウンドも1セット用意した。スタート時に路面が完全にドライになる保証はないからである。それに仮にドライだったとしても、スタートしてすぐに雨が降り出せば、スリックタイヤでは全く通用しなくなる。Sタイヤなら、ある程度の雨に対応できるし、雨がすぐに上がる可能性もある。そんな理由で、ドライ、インターミディ、レインと3種類のタイヤを用意しできる限りの備えをした。

昼頃開催予定だったピットウォークは中止となり、さらにそのピットウォークの時間にフリー走行を行うということだったのだがそれも中止となり、1時間近くスケジュールが遅れながらも、ようやくスタート前進行に入っていった。
山本和正
※決勝スタート前の著者
脇田一輝
※スタートドライバーの脇田氏、スタート前最後のリラックスタイム
スターティンググリッドにて
※途中からこのようにノボリを持つ著者、反対側は原田氏、いつもの通り

コースイン時刻には雨は上がり、路面もドライに近い状態になった。ほどんどのチームがドライのスリックタイヤを着装し、一部はどうやらインターミディタイヤをはいているようだった。我がKSオートチームはスリックタイヤをチョイス。天候は回復傾向にあると読んだ。

スタートドライバーは前回同様、脇田氏が務めることに。私は今回、セカンドドライバーとして待機することになった。スタート大きな混乱もなく、ほぼ順位キープのまま推移していった。タイム的には1分32〜33秒のアベレージで周回を刻んでいった。脇田氏はさすがに経験が豊富なだけに安定したタイムを出していた。周回遅れなどにつかまった時を除いてほぼ一定のタイムを刻んでいた。そして予定の1時間20分経過時点で、ピットイン、給油及びドライバーチェンジとなった。さあ、出番だ。
Aコーナー
※決勝中、Aコーナーをコーナリング中の著者(撮影:Y'sプロジェクト) Aコーナー
※アングルを変えてAこーナーへアプローチ中の著者(撮影:Y'sプロジェクト)

給油中、走行を終えた脇田氏に話を聞く。水温、油温、やや厳しいがまだ大丈夫。ブレーキまだ大丈夫、タイヤはちびっている(この時交換した)。車内は結構暑いから、ボーットしないように気をつけて、とのことだった。コース的にはほぼドライとのことだった。シートを合わせ、コースインしていく。まずインラップの1コーナー進入でブレーキをわざと強く踏み効きを試してみるが、問題なし。ニュータイヤ、そしてガソリン満タン、ということを意識して運転しなければならない。

決勝中はやはり各チーム気合が違う。プロドライバーも参加しているし、当然ブレーキングも耐久とは言えしっかりとポイントを決めて進入してくる。やはり軽い分、S2000やインテグラのほうがコーナーリングスピードは速いようだ。立ち上がりの加速で抜いていく。スカイラインのスピードはかなり速かった。直線、コーナー、全てにおいて全体的に1段階スピードが速い。それにしてもポルシェの速さは印象的だった。スカイラインよりもブレーキは常に奥で、立ち上がりもアクセルオンが早い。クラス違いとはいえ、非常に素性の良さ、仕上がりの良さを感じるマシンだった。案の定この日のレースでも最後までスカイラインとポルシェの総合トップ争いは続いたのである。

乗り込むと気付いたのは跳ね石によってフロントスクリーンにヒビが入っていたことや、やはり全車コンパウンドが柔らかく、トレッドが溶けるスリックタイヤを着装しているので、フロントスクリーンにはタイヤカスがついていたり、溶けたタイヤが黒くこびりついていることだ。スタート前と比べるとかなり汚れている。耐久レースの過酷さを改めて認識した光景でもあった。

コントロール性は格段に良くなっていた。まずタイヤは交換したばかりのニュータイヤということでグリップ力は強く、コーナーリング中も一気に全開に持っていくことができる(これはランサーの場合進入速度が2駆に比べ遅くなるため、アクセルレスポンスにそれほど気を遣わなくてもよいため)。100Rも思ったより全開時間が長かった。しかしガソリンも満タンなため限界を越えると途端にアンダーが目立ち始めた。

300Rなどは「これでもか!」という感じでアクセルは常に全開。ブレーキングポイントまでステアリングを刻むようにマシンを進めていく。何となくフロントタイヤが逃げていくような感覚になるラップもあったが、これは舵を当てるタイミングの関係でそうなるだけであり、さして問題ではなかった。300Rは最も身体にGを感じるコーナーなので、攻めている、という感覚の一番大きなコーナーだ。

自分が走行している時間帯は、Bコーナー進入あたりから最終コーナー出口の12番ポスト過ぎぐらいまでで小雨が降ってきて、そのせいだろうか、Bコーナーでどうも滑る気がする。気のせいなのか?Bコーナー立ち上がりでどうも一瞬マシンが「よいしょ」という感じでフロントとリアの動きがずれるような感覚と共にリアがズルっと軽く出る。ステアリングで修正を当てるほどではなかったが、このマシンでドライの富士を走ったことのない私は「こんなものなのかなあ」と思いながら走行を続けていた。各計器類をスキャンすると、油温がやや厳しそうだ、125度を指している。若干ペースを落として(立ち上がりで回転数をレヴより500回転ぐらい抑えてシフトアップ)何周かしてみると、120度に近いところまで下がったので、その走りを維持した。

それにしても、他車の動きが非常に気になってしまい、どうも抜く、抜かれるタイミングが掴みづらい。ミラーを気にするあまりブレーキングに集中できない時もあり、自分自身「雰囲気に呑まれてしまっているのだろうか?」と思うことすらあった。スーパー耐久レースにおいては私も“ルーキー”の一人。やはりこのあたりは慣れしかないのだろう。

自分のアベレージラップは1分34秒前半ぐらいであり、他のドライバーから1秒程度遅れをとっていた。自分が走行し始めてから約40分ぐらいたった頃だろうか。最終コーナー出口の13番ポスト手前辺りで2台が絡んだ横転クラッシュがあったためにフルコースコーションとなり、セーフティーカー(先導車)が入った。これを機会に、少々早めだがピットイン、給油しドライバー交代することとなった。
脇田一輝→山本和正
※脇田氏から第2ドライバーとなる著者に交代する瞬間
給油
※給油はこのようにしてクイックチャージで行われる。

この日はこれ以外にも最終コーナーでクラッシュがあり、どうも最終コーナーには何かがいそうな雰囲気だった(笑)。

さて、3番手に乗り込んだのはKS店長原田氏。チームのドライバーの中では一番若いわけだが、ここ一発の速さには定評がある。さあ、後は任せた!しばらくはペースをつかめない感じであったが、すぐに1分33秒付近を刻みだし、32秒台にも入ってきた。そのまま、順調に周回を刻んでいった。順位的にはクラス5〜6位ぐらいに位置していた。
山本和正→原田一政
※原田氏に交代した直後の著者。シートベルト装着の支援をする。 給油
※別の角度から給油シーン。消火器もこのように構える。

交代後40分弱ぐらいたった頃だろうか。ピット前に帰って来なくなった。

「何かあったな・・・」チームの誰しもが思っている時、ドライバーの原田氏が無線でピットに連絡してきた。

「最終コーナーでタイヤが取れた。」

ピット内の空気が一瞬止まった。

「大丈夫なのか?」オーナーであるKS社長がドライバー原田氏に無線で話し掛ける。返ってきた返事は、クラッシュはしていない、ただタイヤが取れてしまって走行不能になった、自分は最終コーナー出口のコース脇で止まっている、ということだった。

15分ほどして、ピットへ原田氏が帰ってきた。何故そんなにもピットに帰ってくるのに長い時間がかかったのだろうか。

「走行している間、ステアリングがブルブルと震えるようになってきて、ヤバイ、次のラップでピットインしよう、と考えているうちに、最終コーナーに差し掛かって13番ポスト手前を通過中、(恐らく4速に入れたころ)突然バキッと変な音がしたかと思うと、ミラーに何か黒いものが写った。すぐにタイヤが取れたと解った。車が突然アウト側に慣性ではらんでいって、咄嗟にブレーキを踏むが、スコーンと奥までいってしまった。すると車は今度はイン側に巻き込み始め、ステアリングで何とか修正していたらイン側のガードレール脇でうまく止まった」ということだった。そして、マシンの中にいたまま、茫然自失としていたと言う。本人曰く、「生きた心地がしなかった」ということだった。

それはそうだろう、最終コーナーで4速に入れたころと言えば、すでに150km/hぐらいはスピードが出ている。そんなところでタイヤが取れてしまっては、普通クラッシュは免れないだろうし、本人も運が良かったとしか言いようがない、と言っていた。後で確認すると、タイヤはドライブシャフトとロアワアームがキレイに折れ、ブレーキローター、キャリパーごとタイヤがもぎ取れてしまったのだ。これではブレーキも利くわけがない。本当に、よくぶつからずに済んだものだ。相当ショックであったに違いない。ヘナヘナと力が抜けてしまったのも無理はない。それにしてもうまく修正したのはドライバーの力量(運も含め)の賜物だろう。

我がチームの今回のスーパー耐久レースは、こうして終わった。

チーム全体が悔しい思いをしていたのは間違いない。「次回こそ必ず・・・」という思いは皆変わらないはずだ。それぞれの思いを胸に、また次回に向けて準備を進めていくことになるだろう。

結果は厳しいものでしたが、これもまたレース。今回も応援していただいた皆さんや、チーム関係者の皆さんには深く感謝しております。本当にありがとうございました。

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©KAZUMASA YAMAMOTO