山本和正パーソナルサイト

◎第12話 スーパー耐久シリーズR2鈴鹿

ご縁があって、スーパー耐久レースにスポットで参戦している愛知県のKSオートさんから、ドライバーとして参加するお話をいただき、ドライバーとして参戦することとなった。スーパー耐久への参戦は初めてだったが、事前に資料を集めたり、レース事務局のHPを見たり、過去のリザルトやエントリーリストなどを確認し、情報をできる限り集めていった。また先輩ドライバーなどにも話を聞き、どういうレースかなどをシミュレーションしていった。

幸いにも昨年から耐久レースばかり参戦していたし、耐久レースに参戦することに何らのためらいもなかった。ただしS耐となると、「プチGT」とも呼ばれるレースであり、ドライバーの顔ぶれも非常にレベルが高い。全日本選手権のタイトルこそかかっていないものの、ワークス体制で臨むチームが多くプロドライバーも多く参戦する。レベルは間違いなく全日本選手権である。

クラスはスカイラインGTRと、今年からポルシェが加わったC1クラス、4駆のクラスであるC2クラス、2000cc以上のクラスになるC3クラス、2000cc以下のC4クラス、そしてN1規定より若干変更の許さされているN+(エヌプラス)クラスの計5クラスによって争われるレースになっている。

第2戦の鈴鹿は、レース距離300マイル(480km)。3月に改修後全長5.806kmになった鈴鹿サーキットを82周する設定だ。

そんな中、参戦することとなったマシンはランサーエボ6。従ってC2クラスとなる。ターボ付き、しかも4駆ということで、初めて走行するレース車両でもある。タイヤはドライの場合スリックタイヤを履くことになる。タイヤはダンロップ、ヨコハマ、ファルケン、そして今年からピレリも参入、その中からタイヤを選ぶことになるのだが、KSオートではヨコハマタイヤをチョイスした。

ドライバー
Aドライバー:原田一政氏
KSオート店長。雑誌社の主催するタイムアタックバトルなどで好タイムを記録しているドライバーで、一発の速さには定評がある。

Bドライバー登録:脇田一輝氏
鈴鹿でのAライ講師も務め、FJ1600からGT選手権、F3、そして米国NASCARの経験もあるドライバー、チームでは監督的な役割まで務める要となる人物だ。

Cドライバー:著者
補欠とも言う(笑)。

ドライバーの名前を見ると、何と3人とも「カズ」じゃないか!(笑)。しかも原田店長と私の名前の読み方は同じ。カズトリオになってしまった。…このトリオ…新曲は、ヒットしそうにないな…などと冗談が飛び交っていた(笑)。

1.フリー走行
さて、レースへの体制として、1テスト1レースという予定であったが、なかなか日程の調整等がつかずに事前のテスト走行はついにできず、レースウィークの金曜日にあるフリー走行でテストを兼ねることになってしまった。金曜日は、S耐参加者のみ走行できる日として確保されている。まず朝イチの8:45分からの走行に、私が走行することになった。

まず初めて乗るマシンということで、フィーリングの確認と各部のチェックから入ることを自分の中でテーマとし、シートに乗り込んだ。さすがにS耐マシンである、ロールケージに囲まれていて当然乗り降りはしづらい(笑)。適正な水温、油温を確認しレヴ・リミットを確認して、エンジンスタート。この日のブーストはまず1.3からスタートとなった。タイヤは昨年の最終戦で使用したスリックで、当然グリップはしない(笑)が、まずは確認のためにコースインだから問題なしだ。

コースインしてすぐ、さすがにS耐マシンのランサーは速いな、と感じた。加速はなかなか良く、今まで乗ったレーシングカーの中でもやはり一番速いぐらいのレベルだ。F4などは当然タイム的にはずっとランサーよりも速いのだが、NAエンジンだし加速はターボ付きのランサーが圧倒的に良いだろう。

まず2周程度軽く流し、タイヤを温めていった。他のマシンのペースは速い。直線では全開をくれてみるが、インテグラなども立ち上がりをめいっぱい踏んでいるとストレートエンド付近でのスピードはそれほど変わらない場面もあった。勿論コーナーを完全に攻めきれていない状態だから仕方がないが、この時点では上位チームのマシンとのスピード差があり過ぎ、ブロック気味の進入を結果的にしてしまうことあり、改めて速さを実感した。

エンジンは非常に快調だった。ストレスなくリミットまで吹け上がり、ブースト計で確認しても1.3のブースト圧はしっかりと安定して出ている。改修された130Rからシケインは、前と違ってまだ掴み所のない感じだ。130Rは全体的にコース幅が広くなったような錯覚に陥る(本当に広くなったのかは知らない)。そして手前できつく奥でゆるくなる感じになったため、最初はブレーキングしすぎてしまった。シケインは少しゆるくなり、コーナーリングスピードが少し上がった。

そして、速いマシンに譲りながら出たタイムは2分28秒台。もちろんコレでは上位へ食い込むことはできない(笑)。3〜4ラップほどした時だろうか、S字では縁石を結構踏みながら向きを変えていくラインで走る癖がついているので、この時も結構乗って走行していた。しかしS字を過ぎたところで、突然マシンのフロント下部あたりからガタガタと異音が発生し始めた。しかもタイヤがフェンダー内部に当たっているような音がし始めたのである。

『しまった!縁石を踏みすぎて、下回りを当ててどこか壊れた!』

その時はそう思い、マシンをただちにスローダウンさせ、ピットへ戻ることにした。ゆっくりとマシンを転がしながら、「ああ〜エアジャッキの脚でも曲がってしまったのかな〜」などと思いを巡らせる。この後走行できればいいが…。

そしてピットインし、すぐさま下回りを確認するが、見た目はどこも壊れていない。話をすると、どうやら駆動系のトラブルのようだった。少なくとも、自分の走行が原因ではなかったようだ。それにしても一旦駆動系パーツをバラして、交換しなければならない。そのために残念ながらこの金曜日のフリー走行はその後できなくなってしまった。

午後の走行時間は各コーナーへ出かけていき、他のマシンの走りをじっくりと見ることに。ポルシェからインテグラまで様々なマシンの走りをS字、逆バンク、1〜2コーナーの観戦席から走り方の研究だ。恐らくフリー走行日にこういうことをやるのは専門家か、マニアか、よほど好きな者でないとやらないだろうが(笑)。

2.予選日
スーパー耐久レースの予選は少し複雑だ。まず午前中の予選時間に、登録したA、B両ドライバーが走行して、基準タイムとなる各クラス上位3台のタイムの110%以内で走行できているかどうかを確認する。このセッションのタイムはグリッドには反映されない。要はドライバーがあまりにも遅くないか、マシンが壊れていないかを確認するための時間だ。

午後の予選時間では、A,B両ドライバーが共に走行し2人のベストタイムが予選タイムとして認定されグリッドに反映される。

さらにその後、Cドライバーが走行し、基準タイム(当該クラス上位3台のタイムの110%)を切っているかどうかを確認する。切れなければ決勝に出走することができないのだ。

A,Bドライバーが共に予選を走行し、2分23秒台をマーク。セッティングが出し切れてない状態でこのタイムはなかなかのものだろう。その後ピットウォークがあり、キャンギャルも出動してピット周りは華やかな雰囲気に。私は何をしていたかというと、まあ愛想を振り撒いていたのと同時に(チームのためでもあるしね!)自分のチームのキャンギャルと写真を撮っている始末(笑)。
キャンギャルと山本和正
※ピットウォークでの1コマ。後方にマシン、マシンのルーフの上にはドライバー3人のヘルメットが置かれている。

Cドライバーである私は夕方の時間に走行するわけだが、今回のクラス2の基準タイムは、午前中の予選のタイムから2分31秒前後だろうとこの時予測していた。よほどトラブルがなければ十分にタイムは出るだろう、ということで何と燃料を満タンで走行することに。(笑)というのは、これは決勝中の燃費計算をシミュレーションする目的のためで、十分にテストができなかったためここで実験を兼ねて行おうということになったようだ。ということで楽な気持ちでコースイン。タイヤは規定によりこの日の朝予選で使用したスリックを履いている。 Cドライバー走行中
※予選中の走行シーン。(撮影:Y'sプロジェクト)
走行中
※予選中のS字付近の走行シーン。けっこうロールしている(撮影:Y'sプロジェクト)

まずコースインし気づいたのは、金曜日の走行に比べ燃料が満タンな分マシンが重いということだ(当たり前だ!)。コースインして次の周でアタックしてみようと思って1コーナーを頑張ったら、燃料タンクのある後部が重く慣性が働いて、2コーナー進入時に大きくテールスライド。しかもカウンター量が少し大きかったため「おっとっと」状態になってしまった(笑)。その後はペースを一定に保ち、走行していく。基準タイムはすぐに切れていたようだ。しかしギアの入りが一部シブいところが・・・ちょっと決勝が心配だ。

3.決勝日
決勝日は、集合した時こそ降っていなかったものの、朝イチのフリー走行出走直前になって雨が降り出した。しかも、結構激しく降ってきた。各ピットは慌しくレインタイヤにはめ換え始めた。さあ、タイヤを換えてまずAドライバー原田氏が乗り込む。雨だから壊さないように…という感じであった。しかし1コーナーのブレーキは結構頑張っている様子だった。続いてBドライバー脇田氏が乗り込む。脇田氏のドライビングはブレーキはつめずに、コーナーリングスピード全体を上げていくスタイルに見受けられた。

マシンを降りて、二人の共通の感想は「いや〜滑る滑る。車がまっすぐ向いているのは直線だけだよ(笑)」などという状況で、怖い中にもなかなか楽しい様子。しかし気をつけないと一発で飛んでいってしまうだろう。

雨は一旦小ぶりになって、タイヤチョイスに悩む場面もあったが決勝スタート前になるとまた本降りになり、グリッド上も傘をさしての移動に。スタートドライバーは脇田氏が務めることになった。
スターティンググリッドにて
※スターティンググリッドについたマシンとドライバー。ご覧のようにウェットレースだ。右に原田氏、左に著者が立つ。
スタートドライバー 脇田一輝
※スタート直前、グリッドについた時のマシン内。スタートドライバーを務める脇田氏は緊張の中にもリラックスしているようだった。

いよいよスタート。ペースカーがピットインし、シグナルグリーンとなり、スタートラインを通過した時から追い抜き可能になる。ウォータースクリーンで視界ほぼゼロの状態で、ほとんどカンでブレーキングして1コーナーへ進入していく。序盤戦はコースアウトが目立った。コース各所で川が流れているのだろう、1台、また1台とコースアウトするマシンが出始める。やはりウェットで荒れるな・・・そう思いながら、ピットでモニターを見守る。ペース的には安定しているようだ。安定したタイムを刻んでいるあたりはさすがに経験豊富な脇田氏である。他のチームがコースアウトやピットストップをしている間に、一時的に順位がどんどん上がっていきクラス4位までいく場面もあった。スタート前の作戦では、スタートドライバーとなる脇田氏ができるかぎり走行し、その後給油を兼ねて原田氏に交代。原田氏のペースが落ち込んだり、トラブルが発生したり、燃費的に厳しくなったら山本に交代、ということであった。途中、トップクラスのチームもマシントラブルでリタイアするなどして、サバイバルレースの様相を呈してきた。こうなると着実にラップを重ねることが一番のようであった。

そして39ラップ目にピットイン、給油とドライバーチェンジを行った。その後、原田氏に交代した。さあ後半戦だ。原田氏のペースは当初こそ様子見で掴めていなかったものの、徐々にペースを上げてきた。雨の中、結構1コーナーのブレーキングも奥まで頑張っている様子の原田氏。ペースも安定しており、悪くない。自分はというと、いつでも出走できるようスタンバイしていた。それにしても、出走前というのはドライバーにとって一番緊張感の高まる時である。緊張してしまうものであるし、身体は自然にいい意味で緊張していき、臨戦態勢に入るものである。だがその状態がずっと続いている状態だ。雨が降っていて、風も冷たく、気温も低く寒いため、身体を冷やさないようにストレッチなどの運動をして温めつつ、自分の出番を待った。

マシンはそのまま燃費も持ち、アベレージラップも落ちることなく、そのままフィニッシュを迎えた。1ストップ作戦が見事決まり、総合17位、クラス6位入賞を果たすことができた。ウェットレースで中堅チームとの差が小さくなったことなど、チームにとっていい要素が増え結果的にいい成績を残すことができたのは嬉しいことである。個人的には決勝にステアリングを握ることができなかったのは残念だが、次回につなげることができる状況を得られたのは大きい。

チームも大喜びであった(笑)。さあ、次回の富士スピードウェイに向けて、準備をしなければならない。

つづく

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©KAZUMASA YAMAMOTO