◎第14話 2003年富士1000km耐久レース(エコラン耐久)
ひょんなことから、トヨタの開発の方から「富士の1000km耐久に出ませんか」という話をいただいた。開催日はお盆の最中の8月13〜14日ということもあり、仕事的に休みが取れるかどうかだったが、何とか皆さんの協力でこのレースに参加することができた。
富士1000kmエコラン耐久レースとは?
排気量によってクラス分けされ、それぞれに使用燃料制限が設けられており、その規定の燃料で1000kmを走りきらねばならない耐久レースだ。レギュレーションはN1を基本としているが、空力パーツはほぼ自由に近く、S耐に近い雰囲気がある。但し、1500cc以下NA、ターボ付は660cc以下といった小型車しか参加できないレースのため、必然的にスピードは低い。ビギナーやレース経験のない人間でも参加できるよう配慮されている。富士スピードウェイ近くのマッドハウス主催で、毎年この時期にFISCOで開催されている。しかし今年9月を以って一旦閉鎖され、コース改修工事に入るため現行コース最後、しかも来年は開催できない。私自身ももう一度現行富士のコースを最後に走行しておきたいという思いもあった。
今回、私を含む4名のドライバーで参戦することになり、トヨタ関連のチームとして、セラで参戦することになった。
<<チーム体制>> |
チーム名 | TEAM TOYOTAc |
チーム代表者 | 奥田祥三 |
車名 | ブラック・ビューティー・セラ |
ドライバー | (決勝出走順で)山本和正、高砂岳美、宮本清英、勝俊博 |
協賛・協力 |
サポート | トヨタ自動車滑e位 |
ホイール | RAYS TE37CUP |
オイル類 | OMEGA、ERG(ユーロリサーチ社) |
ブレーキ | ルービックス |
エアロ | クエストパワー |
グッズ | RIDOX、コンペティションライセンスA、マイナスイオンのエコパワー |
その他 | YZサーキット、レインボーカラーズ、CAREA、ワークスエストリル、クラブセラ、ミスタータイヤマン町田図師店 |
私にとって、勝氏以外のドライバーとは現地で初顔合わせということになり、どんなドライバーが集合するのか、楽しみであった。まず13日に現地入りし、フリー走行で各部のチェックとドライバーの走行ペースの確認を行った。セラは120リッタークラス(GP-Tクラス)に属していて、燃料が満タンで40リッター、それにあと80リッターを給油することができる。合計120リッターでの有効ラップ数で計算すると、1000kmを走りきるにはおよそ7.5リッター/kmの燃費で走行する必要がある。チーム監督奥田氏によると、ドライでは1ラップ2分30秒ペースとのことだった。それにしてもラップタイム的には非常にゆったりとしたペースになる。デミオレースの予選がドライで2分10秒程度だったから、結構エコ走行になる。やはりその名の通りエコランだ。
13日のフリー走行では、そのペースを掴むために走ってみた。マシンにはバキューム計がついており、これによってアクセル開度を間接的に知る事ができたので、ペースは掴みやすかった。ぱっと乗りで走ってみて2分25秒程度。悪くない。その他のドライバーもだいたいそのぐらいのペースで走行してみて、最後に限界を確認するために全開で走行して2分17秒程度のタイムで、いい感じだ、ということだった。
ここで今回のマシン、セラのことに少し触れておこう。エンジン・ミッションはノーマル。「壊れないこと」が基準でありパワー系には手は加えられていない。1500ccのエンジンでは、ガルウイング、しかもルーフの大半がガラスでできているという、重量的にはハンディの大きいマシン(ガラスがボディで一番重く材質を変えなければ計量化できないのだから(笑))なのだが、そのマシンを敢えて採用するところがチャレンジングなのだ。この車をマシンとして選ぶ事自体が挑戦と言える。
ボンネットについても後ろを少し浮かせ、エンジンルーム内に入った風を後ろへ逃がす対策も施した。
決勝(8/14)
決勝の朝は早い。4:30に起き5:00に出発。5:30にはサーキット入りして、6:30にはドラミというスケジュールだった。8:00に変則ル・マン式スタートでスタートし、計測システムの関係で12:30〜13:30の1時間が休憩、フィニッシュは18:00、という2ヒート制のレースだ。朝起きると既に雨。予報でも一日雨とのことだった。
※スタート前進行直前のマシン。外は既に雨だった
※スタート位置についたマシン。変則ルマン式スタートとなる
どしゃ降りの中ビデオ撮影などをすませると、8:00のスタートへ向けて少しずつ準備が進められていく。事前に決められたスタート順位(どうやって決めたのか知らない(笑))は14番手。スタートラインゲートよりも1コーナー側であり、メインスタンドやピットウォールから遥か先の距離位置だ。スタートは、コースピットウォール側に斜めに停車した各マシンに、スタンド側からチーム員がスタート合図と同時に走ってきて、マシンのフロントガラスにタッチした時点で、エンジンスタート、そして発進という変則ル・マン式だ。しかも、スタート要員は「全員仮装していなければならない」のだ!各チームともいろいろな格好をしてきていた。ナース(男も女もいた)、ロボコップ(みたいなの)、青鬼、アニメうる星やつらのラムちゃん、リアルなどらえもん、ホルスタイン…などなど訳酔ってもいないのにファンキーな連中が勢ぞろい(笑)楽しみたいところだったが、生憎自分はスタートドライバーだったのでそんな余裕もあまりなかった(笑)。我がチームは、チャイナボーイ(笑)。勇気ある某ドライバーが務めてくれた(笑)。
※今回もエコパワーさんに協賛を頂いた。ありがとうございました
※スタート位置は、このようにスタートラインの遥か先だった
※著者とマシン。この写真、なんだか寂しい感じがしますね^^;
※ドライバー4名でパチリ。
チャイナボーイがフロントガラスにタッチし、キーを回してエンジン始動、予めギアは1速に入れておいたのでそのまま発進した。雨は思いのほか激しく、恐らくウォータースクリーンで周りは全く見えないだろうから、いち早く一番イン側のラインを確保し、左右から同時に差されない位置でスタートの1コーナーを抜けていこうと考えていた。スタート後すぐに右へステア。何台か抜いた(よく覚えていない)。大渋滞のまま、Aコーナーへと差し掛かるが、どうも周りのマシンがどう動くのか読めない、危険な状態だ。ここで無理をすれば、レースが終わってしまうかもしれない。慎重に周りを見ながら運転した。幸い自分の周りではスピンやクラッシュはオープニングラップには起こらず、ある程度オーダーの整った状態で最終コーナーへと抜けてきた。しかし視界は極端に悪い。撥水加工をして、ワイパーを最速にしても回りは見えない(そりゃそうだ)。そして、ホームストレートに戻ってくると、何と赤旗が出ているではないか!・・・何ともタイミングが悪いことだ。もう少し早く出ていればピットインできたのだが、ピット入口を過ぎたところで赤旗を見た(あるいはその時に初めて
気付いたのか?)
※これがわがチームのスターター、チャイナボーイ(笑)拍手を送ってくれぃ!
※仮装したスターターがコース反対側に位置する。異様な雰囲気?(笑)
※スタート直後の著者。左側には青鬼が(爆)その後ろにはリアルどらえもんがいる(爆)
そのため、そのまま1周してピットインせねばならなくなった。見ると300Rで数台のマシンが絡む多重事故が発生していた。どうやら自分の後方で1周目に起きた事故のようだった。ピットインすると、当然のことながら後ろのほうへ回される。一旦ピットレーンで待機していたが、どうもしばらく再スタートする気配はない。一旦マシンを降りピットへ戻った
どうやら雨量が多く危険なため、このまま小康状態になるのを待ってセーフティーカーの先導でフルコースコーションのまま走行していくということになったようだ。その間、周回数は刻まれる。15分ぐらいして、その再スタートとなった。しかし先導付のフルコ−スコーション状態で1周4分〜5分かけての走行だ。ひたすら我慢、我慢の子となった。無線からは「ただいま大名行列中」とか、「お盆に里帰りする時のお父さんの気持ちがわかるねぇ」といった他車の声も聞こえてきた(笑)。自分自身もだんだん疲れてきてしまった(笑)。何が疲れるって、全開にできず前車を抜けない、自分のペースで走れないのが疲れる。100台を超えるマシンがエントリーしているため、1コーナーや100R過ぎなどで前が詰まり渋滞してしまう。これもまたフラストレーションがたまっていった(笑)。「早く走らせてくれ〜」これでは走行していないも同然だった。その後、ピットからの無線連絡が入る。
「この後グリーンフラッグでオールクリアになるけど、300Rは川が流れていて危ないからいつでもイエローコーション区間でずっと追い越し禁止」ということだった。なるほど、そういうことか。
10周ぐらいしたのだろうか、30分前後がそのまま続いた後、ようやくグリーンフラッグが振られた。よし、これでやっと思い通りに走れるぞ〜と今までの分を取り戻すかのように1コーナーは全開で進入していった(笑)。雨は相変わらず降ったままで、雨量は多少の差はあるものの基本的にヘビーウェットは変わらない。
後で聞いた話だが、このとき静岡県東部では大雨洪水警報が出ていたらしい。確かにメインスタンドから最終コーナーよりにある階段からは滝のように水が流れているのが走行中のマシンからも見えた。
そんな中、1コーナー進入ではメーター読みで160km/h程度。スピードはFISCOとしてはそれほど高くはないが、何せヘビーウェット。メインストレートをまっすぐ走行しているだけでも、水溜りにのって浮き気味になりステアリングが持っていかれる。水温75度、油温105度。各温度は低めだった。
2コーナーを立ち上がったところの小さいS字のようなところで川が流れていて、そこで「ゴワワッ!」とフロントが暴れる。そしてAコーナーをクリアする。ここはそれほど滑らなかった(ブレーキングは50M看板より奥でも間に合った)。そして100Rは、イン側のクリッピングポイントにある縁石あたりに水がたまっていて、そこへは行けない。半車身分のラインをイン側に残してのラインとなった。
そして100Rを抜けて一旦やや昇り、ヘアピン手前で下りとなる箇所(100M看板付近)でまた斜めに川が流れており、しかもヘアピンのブレーキングポイント手前付近なのでフロントがつつ〜と滑る。ここでちょっとでも無理をするとどこかへ吹っ飛んでしまうだろう。
ヘアピンをクリアすると、300Rだが、やはりここは相当川がひどい。通常ウェットでは一番イン側に1車身分のラインが残されているのだが、この日はヘビーウェットのためそこにすら川が流れていた。最初そこに乗った時はあわやコースアウトかというぐらい滑った。そうかといってその他のラインも水はけが悪く、コース中央付近に等間隔でアスファルトに溝が切ってあるラインがあり、そこが一番マシであったのでそこを走行した。ここは常にイエローフラッグとオイルフラッグが掲示され、追い越し禁止になっていた。
そしてBコーナーを抜けるが、立ち上がってすぐのところにまた川が流れており、水しぶきが上がる。ここはスピードが落ちているところなのでそれほど影響はなかった。
と、このようなコースコンディションの中走行していったのだが、後ろから同じようなペースで走行する赤いビートがいた。ブレーキングでかなり詰めてくるのだが、立ち上がりがこちらが優速で、また引き離す、その繰り返しでなかなか面白かった。特に1コーナーではレコードラインで進入する私に対してイン側を差してくるビート。こちらも1車身分インをあけて進入するが、オーバーテイクはできず出口ではこちらが前をキープする、その繰り返しだった。
そんな状況を何周も続けていた。いつだったか忘れたが、遂にビートが勝負に出た。1コーナーで同じようにイン側から抜きにかかったのである。しかしクリッピングポイント過ぎでライン的にオーバースピードになったのだろう、目の前でいきなりスピンしたのだ!しかし滑り出す瞬間に予想していたため、恐らくイン側にはさらに後ろのマシンが来ていると判断して咄嗟にアウト側に逃げた。コース内では逃げ道がなかったためスピードダウンしながら縁石をまたいでコースアウトして逃げた後、そのままコースに復帰した。しかし、ビートはまだあきらめず追ってくるではないか!これにはかなりワクワクしてしまった。
全体を振り返ると、特に車重の軽いビートはハイドロプレーニングにつかまり易いようで挙動が不安定なマシンが目立った。その点、重いセラはむしろ有利に働き、限界を超えると一気に挙動が出るが、限界はKカーより高く安定していた。このコンディションでは恵まれたマシンだったと言えよう。
イエローフラッグ無視で、黄旗区間でバンバン抜いていくマシンも続出していた。「何をコイツ抜いてくんだ!?」と思いながらも、「どんどん抜いてってくれ〜ペナルティ受けて減算になるから〜むふふ」などと思っていた。案の定、コントロールポスト通過時に掲示板を確認すると、常に3〜5台ぐらいのマシンが黒旗掲示されていた。
もちろん、私はしっかり確認して走行していたので黒旗など出されていなかった。
余談だが、富士のピットレーンの制限速度は60キロ。今回もスピードガンで速度を計測していたようだ。今回のマシンはスピードメーターがついているので、13日のフリー走行の時、「よしタイヤ外径の誤差もあるので50キロで行こう」とドライバー全員で話していた。しかし、何故か13日のフリー走行終了後、スピード違反、しかもドライバー全員が違反していたという知らせを受けたのだ!・・・ちゃんと50キロで走っていたのになぁ・・・。まあもっと落とすしかないか・・・。
途中何度もクラッシュや車両回収のためにフルコースコーションをはさみ、その度に黄旗無視の追い抜き野郎に遭遇し・・・そして2時間弱ぐらい走行した。終わり頃になってくると、窓からアルミのホースを車内に引き込んだエアインテークがあったのだが、そこに水がたまってしまい、水が車内にどんどん入ってきてしまった。そのためにガラスが曇り始め、どんどん見えなくなってきた。ただでさえ見えないのに、こりゃ困ったなぁ・・・と思いながら走行を続け、何とかグローブの甲で手の届く範囲でガラスを拭き取った。しかしフロントは上側は拭けるが下側が拭けず、シートに座りながら背伸びして何とか視界を確保しようとしていた(笑)。・・・だがそれも限界に。四方真っ白でミラーも見えず、「アンタそりゃ無理だよ」状態になってきた。やむなくこれ以上は危険と判断し、燃料消費具合からしてあと20〜30分走行する予定だったが、どこかへクラッシュするよりマシだ、無線でピットインを連絡し、その翌周にピットインした。私がドライブしている間、いろいろな車を相当抜いたことだけは覚えていた。結構多くのドライバーがヘビーウェットを警戒してかなり手前からブレ
ーキングに入っていたが、セラはブレーキがよく効いた。履いていたアドバン・ネオバもタイヤチョイスとして正解だったようで、雨の中をグリップしたほうだったと思う。Aコーナーや100Rではブレーキングで一気にインをついてオーバーテイクしたり、アウト側から抜くなど、セラは攻めることができた。そういう状況だったので、乗っているときは大して意識もしなかったが、ピットに戻ってみるとチーム員が結構興奮した様子で駆け寄ってきた。
「いい走りでしたよ!」そう言ってくれたのだ。そうだったのかぁ?ぐらいにしか思わなかったのだが、聞いてみると、スタート直後の赤旗の影響で、再スタートでは87番手ぐらいになっていたらしい。しかし私が運転している間に50台ぐらい抜いて、35位あたりまで浮上していたということなのだ!これを聞いて自分自身もビックリ。自分のパート約1時間50分ぐらいで、そんなにも抜いていたとは・・・。これをS耐ででもできたら(爆)などと思ってしまった。^^;
続いて第2ドライバーの高砂氏に交代。まだ燃料に余裕はあったので給油はこの時はせず、そのまま交代した。マシンから降りると、待機していた高砂氏にコースとマシンの状況を手短に伝える。滑りやすい箇所、300Rのイエローコーション区間などだ。高砂氏に交代して、ひと心地つく。ふぅ〜。疲れた。が何が疲れたかって、ゆっくりゆっくり走らねばならないことがとにかく疲れた!これは矛盾するかもしれないが、レーシングドライバーにとってサーキットを40〜50キロぐらいでひたすら前に続いてゆっくり走らなければならない状況というのは、最悪に疲れることなのだ!スピードを出せる広い場所で、且つスピード制限もなく、どこからでも抜ける状態なのに一般道の制限速度域でひたすらヘルメットなどのレースの装備をつけたまま、エアコンもなく、オーディオもない状態でずっと走る・・・。う〜ん少なくとも私はイヤです(笑)
※高砂氏に交代
※マシンを降りた直後の著者。例によって汗だくだが、身体は楽だった
高砂氏のペースは安定していた。燃費も考えて、うまく2分20秒ペース付近でアベレージを刻んでいた。たまに無線連絡が入るが、大きな問題はなさそうだった。当初の予定では、午前中に1回給油をする予定だったが、とにかくフルコースコーションでセフティーカー先導が多く燃費は思い切り良くなっていたので、給油はせずに走行を続けていた。無線で高砂氏から燃料の残量をメーター読みであるが知らせてもらい、ピットでは給油のタイミングの変更について話し合った。12:30頃に、計測システムの関係で一旦昼休憩に入り、その時刻で全車メインストレート上にストップし、再スタートまで車両保管となる。従ってこの間は給油はおろかマシンに触れることはできないのだ。そのため、昼休憩手前に一旦ピットインし給油するタイミングとした。できる限りギリギリまで給油を遅らせたいが、この状況では他のチームも燃費が伸び、きっと同じことを考えているに違いない。恐らく給油所が混雑してロスが多くなるぞ、やはりこれはインターバルの15分前までに給油は済ませておくべきだ、ということになった。
うんちく♪
このレースは給油はピットで行うことができず、燃料の量が決まっているため、パドック奥にあるガソリンスタンドで給油しなければならないのだ。1度に2台程度ずつしか作業できないため、タイミングが悪いと前のマシンが給油を終えるまで待っていなければならないのだ!
このため、携帯電話を使ってスタンド付近で1名待機し、待ちが少ない或いはいない時を狙ってピットインの指示を出すということになった。
チーム員がスタンド付近で確認すると、1台程度給油車がいる程度だった。よし、今のうちだ。すかさずドライバーにピットインと給油を連絡。次のラップでピットインした。なんと待ちなしで給油することに成功!うまくいった。そして最初の給油の際には、給油終了後6分間指定のパルクフェルメ内で停車しなければならないルールがあるため、じっとそこで待ちつつ、セラのガルウイングを開けてしっかり外気を車内に入れ、窓の曇をとったようだった。
そしてコースに復帰、あとは昼のインターバルまでペース維持に専念した。ほどなくフルコースコーションとなってセフティーカーがコースイン、そのままインターバルとなった。降りてきた第2ドライバー高砂氏によると、燃料がこなれてきて車重が軽くなってくるとマシンが浮いてしまい、後半にマシンが不安定だったようだ。これにはスペアタイヤを積んで重量を増すことで対応することになったが、昼休み後のスタートまでは車両保管でマシンに触れられないため、宮本氏(第3ドライバー)から勝氏(第4ドライバー)に交代する時まで何とか耐える、ということになった。
※昼のインターバルで並ぶマシン。このように遥か後方まで続いている。
昼は用意された鉄板焼きでしこたま肉や野菜を食べた。何せハラが減っていた(笑)
さて、13:30には第2ヒートがスタートされる。第3ドライバーの宮本氏がステアリングを握る。スタート時、懸案だった窓の曇を何とかするため、まずエアーインテイク内にたまった水を抜くために密かに小さなマイナスドライバーをポケットに忍ばせ、インテイクに穴を開け、水を抜いた後フロアを雑巾でふき取る、という作業を行った。車内に水があると曇ってしまうためだ。これもやらないよりマシ、というレベルであり完全に曇は取れないだろう。
再びペースカーの先導でローリングスタートが切られた。宮本氏のペースも極めて安定していた。雨の降り方に波があるため、雨量の少ないときはペースが少し上がりタイムも伸びる。雨量が多いとやはりペースは落ちた。しかし平均して2分25秒〜30秒ペースを維持できており、全く問題なし。一旦満タンに近い状態での再スタートであり、残り4時間半程度のレースであったため、燃費計算と給油のタイミングも一旦仕切りなおしをした。計算でいくと、当初の計算より燃費は伸びているため給油を1回減らすことができる。後2回給油すれば走り切れる状態だ。そのため若干ペースアップしても問題なしとなり、ガス欠のリスクは減った。宮本氏も何度か無線で連絡が入るが、大きな問題はないようだった。順調に周回を重ねていた。
この頃になると、いいペースを維持していたためにどんどんと順位が上がってきていた。午後の再スタートからは計測を一旦仕切りなおしてスタートしているため、元々後方からスタートしているわけではなかったが、確かこのあたりで10位ぐらいまで浮上していたのではないだろうか。宮本氏のパートは予定の1時間30分を走行して、第4ドライバー勝氏に交代することになった。彼は富士フレッシュマンレース時代から富士の走行経験のあるドライバーで、コースはこうしたアンダーパワーマシンでの走行に慣れているはずだ。宮本氏の交代時にも給油を行うことになっていたので、携帯でスタンド付近のチーム員とやりとりしながら給油のタイミングを図りピットインした。
この時も絶妙なタイミングでスタンドに滑り込み、待ちなしで給油に成功!ロスを最小限に留めることができた。そしてピット前で勝氏に交代した。宮本氏もやはり、最初は良かったのだが、燃料が減ってくると車体が軽くなり、その分ハイプレに陥りやすく、後半でマシンが不安定だったようだ。ここで当初の予定通り、スペアタイヤを積み込んで少しでも重くし、ガソリンがこなれてきても車体を安定できるようにした。
勝氏も非常に安定したアベレージを出していたが、ペースがやや速い。2分25秒ペースでコンスタントに走行し、2分30秒以下のタイムに落ち込むラップがあまりない。これは踏んでいるな〜と思っていた。予定では、後1回ピットインしてもう一度私に交代して走行、給油はそのときの残量を見てするかどうか決めるというものだった。無線で聞いてみると、水温80度、油温120度ということだった。先ほどより温度が高いのは、恐らく回転数も高くなっているためでは、というのがピットの予想だった。とすると、予想より燃費が伸びないかもしれない。給油はどうする・・・?微妙なところだ、ということになった。
※アウト側から1台抜き去りながらピットを見る勝氏。
※ピット前を失踪、いや疾走する勝氏ドライブのマシン。
順位は順調に上がっていき、交代後1時間ぐらい経過した時点でモニターで確認すると総合8位辺りに位置していた。ピット内の誰もが少し期待し始め、上を意識し始める頃だった。ここで選択をしなければならなかった。
私がチームに提案したのは、入賞が狙える可能性が高くなってきたから、勝氏の体力さえ持つなら、私に交代せずそのまま走行してドライバー交代のロスをなくそう、という提案だった。チームはそれを承諾し、無線で勝氏に残り2時間近く走行し続けることができるかを確認する。するといける、という答えが返ってきた。よし、ならばそれでいこう。しかし給油はどうするか。無線で勝氏から燃料計の目盛りでどこにあるかを聞き、残量と残り時間を計算してみる。微妙だ。燃料は恐らくギリギリで持つ。しかしペースは上げられないだろう。これは賭けみたいなものだ。給油をしてガス欠の心配が全くない状態で、全開で給油時間分の遅れを取り戻し、ハイペースでチェッカーを受けるか?それとも給油せずにロスを少なくし、燃費走行でフィニッシュを迎えるか?
ギリギリまでチーム内で計算と協議が続いた。給油するならばなるべく早めに済ませ、できる限り長い時間全開で走行してペースを上げていき、順位を伸ばす必要があるから、急がねばならない。勝氏は給油したいという連絡が無線で入ってくる。ピットにいる人間としてはロスは極力抑えたい。
第4ドライバーに交代後1時間30分近くが経過、そろそろ決断だ。そうしたところで、フルコースコーションでセーフティーカーが入った!よし、今のうちだ!ゆっくり周回するフルコースコーションの間に給油を済ませ、そしてその後全開でペースアップだ!ドライバーも了解していたらしく、それを無線で伝えるとタイミングよくすぐさまピットイン、スタンドへ直行した。運良くこれもまた待ちなしで給油完了!よし、これで後はアクセルを踏み込むのみだ!勝さん、後は頼んだ!
モニターで見ると給油によって一時的に順位は14〜15位ぐらいに後退した。しかしガス欠を意識してペースを上げられないマシンもいるだろうから、これは有利だ。願わくは、ここからはフルコースコーションがなるべくなく、ペースアップしてトップに追いつく時間を少しでも長く取れることだ。
勝氏はペース維持に自信がある様子だった。モニターで見ていると、2分25秒、2分23秒、とペースはどんどん上がっていく。何度かセフティーカーが入る場面もあったが、順位もどんどん浮上していき、残り30分、というときには遂に総合4位にまで到達した。
ピットはそろそろ、若やいだ気分に。(笑)タイムが更新されるたび、ピット内に歓声が上がる。冗談が飛び交うなど、だんだん勝ちムードが漂い始めた。モニターを見るたび、タイムも順位も上昇していったからだ。前車とのタイム差や、どんなマシンなのかをチェックする。
タイムは遂に2分21秒をマークした。そしてその時!
無線連絡・・・
ドライバー:「コースアウトしました、1コーナーでまっすぐ行きました・・・前車がスピンしたのが、ウォータースクリーンで見えなかった・・・」
ピット:「わかりました、脱出できますか?」
ドライバー:「脱出不能、脱出不能。サンドトラップにはまってます」
・・・。
ピット内の空気と時間が、一瞬止まった。
しかし、まあ今までの貯金が消えて振り出しに戻ったようなものだし、巻き返しに期待するしかないよ!
そういうことを呟きながらも、じっと車両回収の順番を待つ。このレースでは車両回収をセフティーカーを入れてフルコースコーションにして行い、回収後自走できるなら復帰してよいのだ。従って何とかこの後に巻き返すしかない。しかし残り時間を見ると、後15分・・・。入賞は絶望的となった。
復帰後、順位は20位ぐらいだったと記憶しているが、それからも2分24、5秒のペースを維持し、順位は14位まで復活した。終わりごろにはピットウォールまで全員が出てマシンのフィニッシュする姿を、拳を上げて見届けた。誰もがチェッカーを受けて完走したことに達成感を感じており、レース中の細かいことなど気にする者はいない。全員がフィニッシュドライバーである勝氏を出迎え、労いの声をかけた。
※雨の中ストレートに並ぶフィニッシュ後のマシン。
※その2
※ドライバーとヘルパーのデビ〜ル氏でパチリ。
※チームオーナー&監督の奥田氏と共に。
そして、パレードラン。要はマシンに皆でハコ乗りしてお互いの健闘を称え合うのだ。こういうとき、ガルウイングのセラは非常に得だ(笑)。両側のガルウイングを開け、そこに2人が立ち、そしてリアハッチを開けてそこに2人立ち、そして一人が運転する、という形で現行富士のコースをパレードラン、いや「練り走った」(笑)。こんな状態で走る連中はいない(笑)結構みんな大人しく(それが普通なのだが^^;)走っているのだが、我々は飲んでもいないのに酔いまくり(笑)、ノリノリで走っていた。前を走っている車の中に、ちょっと元気のいい連中がいると「あの雑技団を追え〜!」などと悪ノリする始末。あぶねぇよ、などと言いながらもおおはしゃぎでパレードランしてしまった。こんなことができるのは、現行の富士で最初で最後だろうな、と言いながらこのコースを満喫した。
※ファンキーな第2ドライバー(笑)
※嬉しさ?を隠し切れない第4ドライバー&デビ〜ル氏(笑)
※自分で自分をパレードラン中に撮った著者。酔ってるみたいだ(笑)
※パレードランを終えてまた1枚。いい雰囲気の写真になった
それにしてもノリのいい連中が揃ったものだ!ここまではしゃげるメンバーもそうはいないだろう!(笑)結果はどうあれ、完走を果たせたし本当に楽しかった。まさに「耐久レースの原点」を改めて感じることのできるレースだったと思っている。
この場を借りて、レースの準備段階からを含め、作業を進めてくれたチーム関係者の方々、スポンサー各社様、協力していただいたチームメンバー及び有志のヘルパーの皆様に改めて御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。どしゃ降りの天気の中であっても、いい雰囲気の中でレースができたことに感謝しております。
最終結果
出走135台、完走121台
総合24位、クラス14位 消化周回数149周、所要時間合計8時間6分13秒734
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