さあ、とりあえず次の出番まで休憩だ。噴出す汗を拭き、ドリンクを飲んだ。すぐにタイムは15秒台に乗り、すぐに14秒台へ突入。
ようし十分速い、と思い安心してトイレに行ったり、ドリンクを椅子に腰掛けて飲むなどリラックスしていた。
ピットからのコースの雰囲気とレースの心地よい緊張感が漂っている。えむあーる氏の走りは安定しているし、
どうやら途中で前を行くスカイラインを最終コーナーでかわしたようだ。ここで暫定クラストップに躍り出たようであった(未確認)。
走っている時は長く感じるものだが、休憩している時は時間は早く過ぎるもの。数十分後、2回目のドライバーチェンジの時がやってきた。
ピットインの指示が出され、ドライバー交代。交代はいつも通りうまくいった。えむあーる氏からも同じように水温に気をつけるように声をかけられた。しかし、スタートボタンを押す時間が短すぎたのか、エンジンがかからず、一瞬動きが止まってしまった(笑)。ボタンを押したら、「ガー」と、エンジンがかかっている時にキーをスタート位置まで回したような音がしたので、「あれ?もうかかっているのかな?」などと思ってしまったからだ。でも、やっぱりエンジンはかかっていなかった。気を取り直して再度ボタンを押し、今度はエンジンスタート。シートベルトを締めてコースインした。ちょっと手間取ってしまった。
さあ、いよいよ後半戦だ。順位は既によくわからなくなっていた。後で考えれば、とりあえずタワー横の電光掲示板か、
ピットモニターを見に行けばよかったのだが(笑)。コースインしてコンソールパネルを見る。水温95度、油温120度以上。やはり厳しい。
1コーナーでブレーキを踏むと、スタート時よりも奥までフワっと踏み込む感じになっていた。感触を確かめながらペース維持に努めねばならない。
インフィールドを走行する頃に感じたのは、燃料がこなれて軽くなり、マシンの挙動が楽に出るようになったこと。さてと、どこまでいけるだろうか。
しばらく周回遅れや上のクラスにラップされる走行が続き、基本的に一人旅状態。ピットサインを見ると、15秒台、14秒台あたりで走行できているようだった。
フロントタイヤはやはり少しずつタレる方向へ向かってはいるが、大きな問題はなかった。それよりも水温・油温が厳しかったので、それを気にしながら、
やはり6000〜6500rpmシフトでの運転を基本とした。途中、90度付近にまで一旦水温が下がるのだが、そこで回転数を上げるとまた水温は上がってしまう。
そんな繰り返しだった。
そして、何周した時かわからない。何台かのマシンを挟んで目の前にスカイラインがピットからコースインしてくるのが見えるではないか。
おお、これは・・・。追いつくしかない。そして追い越すしかない。これはいいレースだ、それに強敵だ。あちらのペースとこちらのそれにあまり差はないし、
果たして残り時間の間に追いつくことができるだろうか・・・そんなことを思いながらペース維持に努めた。
「う〜ん、これは・・・」
目の前にいるマシンを抜けば、優勝だ・・・それを思うと、熱い思いがこみ上げてくる。何とかして追いつき追い越したい。
しかし、すでに水温・油温は厳しく、回転をあげればすぐにどんどんと温度計の針は上がっていく。ピットサインを見ると、14秒台がコンスタントに出ていた。
これ以上ペースを上げるのは非常に辛い状況だった。しかしながら、ピットの監督H氏からはペースアップの指示が。恐らくもう後は任せるから行け、
クラストップを取って来い、ということなのだろう。想いは私も同じだった。しかし、マシンが持つかどうか・・・
ここで、トウカイ社長さんがレース前ミーティングの時に言っていた言葉が頭を過ぎった。
「最終戦だし、ある程度のリスクはとっていこう」
そうだな、リスクはある程度とってもいいんだ。そう思った。だがチェッカーを受けなければ、このままの2位のポジションも受けられない。
全ての要素を考慮に入れ、その上で前車を追い越さねばならなかった。
水温計の針は既に95度を越え、100度近くになっていた。油温は125度を越え始めていた。それでも、前車に追いつくため、
時には7000rpmまで回してペースを上げる努力をした。とにかくコーナーリングではロスをしない走りを心がけ、
そしてガソリンがこなれて軽くなってきたのもあるのだろう、途中で13秒台に入り始めた。
それでも尚、まだ前車を肉迫するところまで差を詰められない。ピット前を通過するたび、監督を始めえむあーる氏やピットクルーの姿が見えて、
行け行けムードで皆盛り上がっている。ピットサインのペースアップ指示の矢印が、どんどんと高い位置に変わっていくのも見えた(笑)。
ピットではとにかく行けということのようだ。
途中、周回遅れのマシンに絡んだり、上のクラスのマシンに進路を譲ったりということを何回かはさむため、差を一気に詰めることはできなかった。
水温計・油温計を睨みながら、回転を少しでも上げる運転をし、ギリギリの状態で追いかけ続ける。
「リスクをとろう」というトウカイ社長さんの言葉と、「チェッカーを受けなければ結果にはならない」という自分の思いが繰り返し何度も頭を駆け巡った。
そして水温は限りなく100度に近くなり、気持ちミッションオイルの匂いが漂い始めていた。しかしもう、ここまで来たら行くしかない。
これ以上ペースを落とすのは止めよう。そう決めた。もちろんチェッカーを受けなければならないので、
回転を落としても大差のない箇所では早めのシフトアップも心がけていた。タイヤもタレてきている。しかし他のマシンもそれは同じようだ。
前を行くスカイラインも、動き的にタイヤはつらそうだった。タイムは13秒台だったり、14秒台だったりであった。ジリジリと追いついていく。
「まだチェッカー出るなよ・・・」そう思っていた。きっと追われるほうは「早くチェッカー出てくれ」と思っているだろう。
そして、残り何分の時かわからない。インフィールドからダンロップ下で差を詰めて勝負をかけようというタイミングで、
第2ヘアピンで一瞬ペースが落ちたスカイラインのインをブレーキングで一気に突き、何とか前に出ることに成功したのだ。
しかし、抜いたと言ってもすぐに抜き返される可能性も高い。奥のヘアピンの立ち上がりは目一杯回して立ち上がる。そして最終コーナーへ。
すぐ後ろについてきているのがミラーに映っていた。さあ、ここからは逃げ切ることができるかという勝負になった。ベストな走りをするしかない。
非常にクリーンなバトルをしてくれている相手にも敬意を表する意味を含め、変なブロックはしたくなかったからである。
もしこれでまたインを突き返され、抜かれるとしたらそれは相手の方が勝っていることになる。そう思っていた。
しかし、今回は運がよかったらしい。前に出てから2周ほどしたところだっただろうか、遂にチェッカーフラッグが出た。やった、クラス優勝だ!
最後の最後まで争うことになったこのレース、皆お互いに苦しかったと思う。ピットに帰ってきたとき、他チームの方々から拍手や言葉をいただいて、
とても爽やかな気分になった。
|