山本和正パーソナルサイト

キミは、周回王を知っているか?

この人物は非常にマイナーなため、出典元の月刊競争自動車でも殆ど取り上げられていない貴重なストーリーである。

突然、YZにやってきた。(いつもこのセリフだな、おい!)まあ少し変わった人はいつでも突然やって来るものだし突然やってきたような印象を受けるものだ。

年の頃は30ぐらいであろうか。

赤いFC3Sに乗って一人でやって来た。

なんと言うか、この人物は非常におとなしい方であり、

内気というか、

兎に角人とあまり話さないタイプの人だ。

その日は、その言葉少ない様子で、フリー走行にやって来た。そして初めての走行で受けるブリーフィングを一通り受け、コースインする。

さて、ここまではごくごく普通の、グリップ走行のお客さんであった。

しかし・・・

その人物は、コースインすると、

いつまでたっても走行しているのだ。

もちろん、初めてのサーキット走行のようだし、

決してお世辞にも速いとはいえないペースではあったが。

そして、同じ枠で走行している車両がいったんピットインしても、一向にピットインする様子もない。

とうとう、コースにはそのFC1台だけになってしまったではないか!

計測器をつけていた彼の消化ラップ数を見ると、20分たったところで、既に30周に到達しようというところだった。

いくら秋口の涼しい時とは言え、タイヤはタレるだろうし、水温、油温も厳しくなってきているはずなのだが、

アクセルを緩める気配は全くない。

そうこうしているうちに、どうやら全開で最終コーナーを立ち上がり、回転数も上がった、 その瞬間!

とうとう、突然白煙を巻き上げたのだ!

それでも、全く気にすることなく、全開で1コーナーに突入していったのだ!

それからすぐであっただろうか。

コース内でストールし、止まっているではないか!

すぐに赤旗にして車両回収に向かう。

彼のFCは、コース上で完全にオーバーヒートを起こし、

水煙をブスブスと吹き上げて、 下回りからは緑色の液体が流れ出ししていた。

そして「緊急事態以外は車両から降りてはならない」というYZのローカルルールをしっかりと守り、ヘルメットをかぶったまま車内でジッとしている。

「どうしました?車両は牽引していきますね。もうヘルメットは取っていいですよ。」

と言うと、

「ああ、止まってしまいました」

とだけ言う。

その彼は表情を全く変えず、淡々とした雰囲気で牽引の説明を受け、ピットまで牽引されて戻った。

そして、コースクリアとなったので他のクルマは走行を再開し、コントロールタワーに詰めていると、

「あの、車のエンジンが掛からないんですけど、どうしたらいいですかね?」

とコントロールタワーに上がって聞いてきたのだ。

とりあえず様子を見ようと思い、パドックまでマシンを見に行くと、まだ下回りから水がもれており、オーバーヒートの症状は収まっていない。FCの場合、この状態でエンジンがかからないこともあるし、第一かけないで水でもかけたほうがいい。

今はエンジンは掛からないので、水をかけて冷やし、冷えてからエンジンをかけてみてくださいというようなことを説明した。

みたところフルノーマルのエンジンルームで、FCには必須と言われる冷却対策も何らなされていない。

水道の水をかけてラジエターを冷やし、そしてしばらくたってから、エンジンをかけていた。どうやら普通にエンジンは回っている、

自走して帰れそうだった。

※   ※   ※   ※   ※

その後、しばらく来なかったが、最近になってよく来るようになったその人物は、

S13シルビアに車を変えて走りに来ているではないか!

FCは壊れたのか、嫌気が指したのか・・・?

そんなことを思いながら走行を見守っていた。

だが、・・・・

・・・・・ん、何?

今回もピットインしない!!!

タワーのモニターでは、既に40ラップをそのとき超えていた

走行スタート以来、全くピットインしないのだ。

まあ飛びぬけて速いわけじゃなし、大丈夫だろう。

と思いながらも、50分の走行で、

70ラップ前後も走行するのは、最近は彼ぐらいしかいない。

以来、そこそこ来ているが、周回数の多さたるや、他を抜きん出ている!

それ以来、彼は「周回王」と呼ばれている。

さあ来い、周回王!我々は密かに貴方の周回数の記録に期待をしている(笑)

次は果たして1枠で何ラップ走るかな・・・?

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©KAZUMASA YAMAMOTO