・・・君は、全焼事件を知っているか・・・?
いつの世でも、火事は怖いものである。
全てを焼き尽くし、全てを破壊する。
21世紀を迎えた現代でも火災の恐怖は変わらないのである。
サーキットでは、車が限界付近で走るのだから火災の可能性も高いのである・・・。
2000年ぐらいであろうか。ある日の事、よく晴れた夏の日だった。
それほど暑くもなかったと記憶している。
一日フリー走行で、混みもせず、少なくもなく・・・
それなりに走行しているごく普通の日だった。
そんな日に突然、事件は起こるものだ・・・。
午後のドリフト走行の時間であったが、20代中盤の男性二人連れが、
スカイラインタイプMで2名乗車で走行していた。
ロングコースでのドリフトを練習したいらしく、
1コーナーの飛び込みで何度もドリフトの姿勢をつくる練習をしていたように覚えている。
何度もトライし、そして、ある瞬間・・・
ボガガガーン!
ものすごい音が、1コーナーから聞こえてきた。
サーキットオフィスで仕事をしていた私は、思わず立ち上がってそちらを見た。
すると・・・
そのタイプMが
"1コーナーの進入であまりにも過激にリアを出しすぎたために(リアタイヤのタレも原因だろう)、あっという間にスピンし、後部から1コーナーアウト側のスタンドのコンクリート壁に激突、大きくリアを破損"
していた。
トランクは大きくつぶれ、ハッチバック状態に・・・
しかし自走は何とかできるらしく、すぐに動き出した。
しかし・・・。
マフラーがクラッシュの衝撃でステーから外れ、路面に引きずりながら走り始めたのだ。
そして・・・
何と、マフラーのステーがトランク下の燃料タンクを貫通し穴が開いていたために
ガソリンが漏れ・・・火花が散って引火しているではないか!
車を炎が追いかけるような形で・・・まるで
バックトゥーザフューチャーか
トムとジェリーでも見ているかのように!
恐らく停まったら最後、引火して炎に包まれる
だろう・・・。
しかし、ガソリンが無くなるまで走行し続ければ、炎に包まれることはないが・・・
しかしそれは非常に困難・・・
ドライバーは選択を迫られることになった。
そして結局そのドライバーは、第1ヘアピン先のショートカットで停止させた。
当然停止した瞬間、炎がマシンに追いつき、一斉に燃えていく・・・。
停止した瞬間、すぐにドライバーと助手席の男性の二人は急いで脱出し、避難した。
恐らく、僅か1分ぐらいであったと思う。あっと言う間にマシン全体が炎に包まれていった・・・。
もうこうなると、消火器ぐらいでは全く消すことはできない。
消防車による消化剤の大量噴射が必要だ。
マシンに積まれたガソリンと、マシンの可燃物が全て燃え尽きるまで、炎は消えることはない・・・。
我々も全焼レベルの燃え方の場合
消防車を備えた国際レーシングコースならばともかく、燃え尽きるまで待つしかないのだ。
車は、本当によく燃える。
よく燃える。
よく燃えるのだ!
タイヤは燃えるし
ボディ全体の塗装もよく燃える。
内装はよく燃えるし
座席もよく燃える。
熱が高いため、ガラスも溶けるようにして燃える。
黒煙をもくもくと上げながら、燃えていた。
そして・・・
配線が燃える途中でショートしたのか
突然ホーンが鳴り響いた。
まるで、車が最後の声を・・・断末魔の叫びをあげるかのように!
数十秒間ホーンは鳴り続け、そして止まった。
・・・ああ、この車の命も尽きた、と・・・【悲】
思わず敬礼したい気持ちになってしまった!
そしてさらにしばらくすると・・・
タイヤが燃え落ち、パンクしたかのように車高が下がり・・・
バシュン!・・・・バシュン!と破裂するような音が響いていく。
これは、ショックのシェルケースが、熱による膨張で破裂する音だった・・・
そして約30分後、火はだいたい消えてくすぶるぐらいになってきた。
予めフォークリフトの先をバケットに変えて、そこに水を溜めておいたので
フルフェイスのヘルメットを被って、フォークリフトに乗って現場へ向かった。ヘルメットのバイザーを下ろす。
それでも熱が素肌に伝わってくるぐらい、温度が高いのだ。
そして上から水をかける。ものすごい音と蒸気をあげて、くすぶりが消えていく。
そして、もう1杯かけた。
それにしても無残だ・・・
全焼した車は、本当にフレームと芯のみ。
黒灰色の鉄とアルミの塊、そしてタイヤの繊維・・・。
座席の鉄芯。その程度しか残っていない。
周辺のアスファルトもすっかりと溶けてしまい、結局くっきりとその焼け跡を後世(?)に残すこととなった・・・。
その後聞いた話によると
車の中には全財産(財布)とその財布に入っていた免許証を始めとするクレジットカードなどの各種カード
そして・・・
オーナーの男性の、彼女との婚約指輪が入っていたらしい!
その男性のその後については、一切聞いていない・・・。
そして、私自身その男性をあれ以来見たことがないし・・・結婚したのかどうかも知らない・・・【悲】
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